掲載2009年12月10日
内容紹介・訳者メモ
ウィリアム・イングドール氏は、メキシコで豚インフルエンザが発生したと言われた段階(4月)で既にインチキを見抜いていました。1976年の豚インフルエンザや、2005年の鳥インフルエンザ(タミフル販売)の歴史を熟知している彼にとっては、テレビ・ドラマの再放送を見ているような気分なのでしょう。
イングドール氏は、医療問題だけでなく、遺伝子組み換え食品・アグリビジネス、石油資源をめぐる地政学・軍事問題、国際金融支配など極めて広範囲に詳しく、異常とも思えるほどの分析力を持っています。もしかして国際政治オタク?
今回はウクライナの疫病に関する分析です。ウィルスの空中散布も噂されてましたが、イングドール氏の分析では栄養状態と衛生行政の悪化が原因のようです(もちろん、両方とも正しい可能性もあります)。イングドール氏は噂だけでは反応せず、公式記録を執拗に追うスタイルの人なので、本件に限らず記事の信憑性は高いと思います。
IMF(国際通貨基金)型マネー・ウィルスだったという話です。

ウクライナの疫病の原因はH1N1ではなく経済の破滅だ
Ukraine: H1N1 is not the Problem. Economic Catastrophe Conducive to Deterioration of Health Conditions

WHOとウクライナ当局が、コントロール不能のH1N1豚インフルエンザのせいにしたウクライナの死者は、H1N1が原因ではない。WHOは、H1N1ウィルスの存在自体をまだ証明できていない。死亡者が出たのは、主要穀物の供給が途絶えたことに加え、一般的に衛生状態が衰弱していた結果のようだ。「通貨安定化借款」の前提条件としてIMFがウクライナに強要した融資条件こそが原因の第一候補であり、豚インフルエンザではない。
今年の夏、ジュネーブのWHO内部で、未確認のA(H1N1)型インフルエンザを「パンデミック級」の人類に対する脅威として宣言するという政治的決定がなされたが、それ以来というもの、以前WHOが警告していた、医薬品による治療を寄せ付けない結核の大発生とウクライナの結核(TB)菌の話題は不思議なほどに消滅している。この事実は何を物語るのだろうか。もしかして、WHOとその背後にいる巨大医薬品産業にとっては、「豚インフルエンザ」と名付けておいた方が、落命や不具になる恐れのあるアジュバント入りの未検証の新型ワクチンを売るためには都合が良いのだろうか?
最近改訂されたWHOの定義では、結核または肺障害による死亡は、インフルエンザによる死亡と同じ「死因」カテゴリーに一緒くたにされることになった。WHO国際統計疾病分類(ICD)の第10章「呼吸器系疾患」(コードJ09-18)では、同じタイトルで、インフルエンザと肺炎を一まとめにしている。結核が治療されずに死亡した場合、肺炎として記録され、コードJ09-18にブチ込まれる。これはもしかして政治的意図でなされているのかと疑念が生じる。また、2009年4月以降、A(H1N1)型インフルエンザが原因であるとして報告されてきた死者数は全て、実は結核のような重症の肺炎患者であり、治療されないまま命取りになったのではないかと疑いたくなる。【脚注1】
記録的なレベルの結核
2008年2月、WHOは、致死的な結核がウクライナに拡散していることを警告している。2008年2月26日のロイターの報道によると、WHOは「既存の医薬品では治療できない結核症例が、かつてない勢いで世界的に記録されている。特に旧ソ連圏が危険に晒されている」と語ったようだ。
さらに記事では、「WHOは81カ国のデータに基づき、世界で毎年およそ50万人が、結核治療の主力の2種類もしくはそれ以上の医薬品が効かないタイプの結核に感染したものと推定している。この数字は、毎年新たに発症する結核の件数9百万の約5%に相当する。どんな医薬品も効かず、治療が極めて困難な結核が、45カ国で確認されており、アフリカのデータが殆ど入手できないことを考えれば、他の国にも広がっている可能性がある、と国連の衛生当局は語っている」とある。【脚注2】
「これには大いに腹立たしさを感じている。世界はこの疫病を深刻に捉えていない」と、WHO結核予防局長のDr. Mario Raviglioneが電話インタビューで語った。「報告を見れば、世界の大部分で大変な事態になっていることが分かるはずだ」
その当時、WHOは、医薬品が効かない結核に最も襲われているのは、ロシア、アゼルバイジャン、モルドバ、ウクライナであると報告している。Raviglione博士は、この原因を、長年の社会・経済的荒廃、公衆衛生システムの解体、劣悪な生活環境などにあるとしている。

2008年のWHOの調査によると、いわゆる多剤耐性(多くの医薬品が効かない)結核(MDR-TB)の高い発生率が、アゼルバイジャンの首都バクーで記録されており、そこでは新たな結核症例の22%が多剤耐性だったと報告されている。このような高い率が確認されたことは世界中どこでもないことだ。また、モルドバでも多剤耐性結核が異常に蔓延(新たな結核症例の19%)しており、ウクライナ、ロシア、ウズベキスタンも同様の状態であるとWHOの報告に示されている。
WHOによるこの規模の結核調査は、2004年以来のものだった。ペルー、ルワンダ、グアテマラは別として、南北アメリカ大陸、中央ヨーロッパ、アフリカでは多剤耐性結核の比率が最も低かったと報告されている。【脚注3】
2008年11月の緊急通貨安定化ローンの前提条件としてIMFは、年金給付の大幅削減とともに、衛生サービスなどの公共支出を大幅に削減するよう、ウクライナ政府に要求し、また要求し続けている。これが現在、H1N1ではなく悪性の結核による死だと考えられている疫病発生の下地となる大規模培養環境を生み出した。
凶作
事態を更に悪化させることに、かつて「ヨーロッパの穀倉地帯」だったウクライナに凶作が迫っている。権威筋の調査会社SGSアグリカルチュラルサービス(ジュネーブ)によると、今期の黒海地方の小麦には、深刻な害虫被害が発生している。ウクライナでの害虫による収穫被害は平均4.6%という実に高い被害率になると予測され、一部の地域では80%にも及ぶという。【脚注4】
SGSはその理由を、気象条件の他に、経済不況のため、農家に農薬(殺虫剤)を買う金がなかったことにあると述べている。米国とEUの小麦納入業者はウクライナの損害に気分を悪くしているそうだ。だが、これは、ウクライナ国内の基本的な食糧であるパンの価格に破滅的な影響を及ぼし、脆弱な人々の栄養状態を更に悪化させることになりかねない。グラクソスミスクラインはIMFを退治するワクチンを開発するのに注力すべきなのかもしれない。
(翻訳:為清勝彦 Japanese translation by Katsuhiko Tamekiyo)

原文の紹介
F.William Engdahl ホームページ http://www.engdahl.oilgeopolitics.net/

脚注
1. World Health Organization , International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, 10th Revision, Version for 2007, accessed in http://apps.who.int/classifications/apps/icd/icd10online/
2. Will Dunham, Drug-resistant TB seen at record levels globally, Reuters, Feb. 26, 2008.
3. Ibid.
4. J. Borejan, Presentation at Global Grain 2009, Nov. 25, 2009, accessed in http://www.sgs.com/j_boerjan_presentation_at_global_grain_2009?viewId=641