掲載2010年7月10日
訳者メモ
既に「ハートランド・パワーの地殻変動とウクライナ」の記事があるが、ロシアとEUの一体化の動きが伺える内容である。

地政学の主要舞台となったドイツのルブミン
The New Geopolitical Importance of Lubmin

戦後のドイツ連邦共和国の歴史を見ると、ワシントンの地球戦略から逸脱しすぎた政策をとり始めた首相は消える運命にあるようだ。ゲアハルト・シュレーダーには、容赦しがたい「罪」が二つあった。第一は、2003年の米国のイラク侵攻に公然と反対したこと。それよりも戦略的に遥かに重要な第二の罪は、当時敵対していたポーランドを迂回して、ロシアから直接天然ガスの大容量パイプラインをドイツへと引き込む交渉をロシアのプーチンと行ったことである。現在、そのノード・ストリーム(ガス・パイプライン)の初期工事分が、ドイツのメクレンブルク=フォアポンメルン州のバルト海沿岸の町、ルブミン(Lubmin)に到達し、欧州とロシアにとってルブミンは地政学の要点になった。
ドイツ社会民主党(SPD)の情報筋によると、ゲアハルト・シュレーダーは、米国のクリントン大統領から目立たないながらも強力な支援を受けていた。クリントンは、シュレーダーが選挙に勝ち、「赤と緑」の連立が実現したなら、米国・NATOの対セルビア戦争(1999年)を支持するように要求していたという。ワシントンは、ヘルムート・コールの時代を終わりにしたかったのである。だが2005年には、シュレーダーは、ワシントンから見ると「ドイツ人」になりすぎていた。そのためブッシュ政権は、その後継者の支援に切り替えたと言われている。
シュレーダー首相の最後の任務は、ロシアのフィンランド国境付近のヴィボルグ(Vyborg)港からルブミンまでの巨大なガス・パイプライン(ノード・ストリーム)を承認することだった。辞任の際、シュレーダーはノード・ストリーム社の会長になった。ノード・ストリーム社は、ロシアの国営ガスプロムと、ドイツのE.ON-Ruhrgas社、BASF-Wintershall社の合弁事業である。また、シュレーダーは、米国の従属国家グルジアが2008年に南オセチアとの戦争を始めたことを非難し、米国の外交政策に公然と非難を強めていた。
2006年、ポーランドのラドスワフ・シコルスキ(Radoslaw Sikorski)外相(ワシントンと親密なネオコン)は、ノード・ストリーム共同事業のことを、1939年のナチスとソビエトの不可侵条約のようだと評している。ソ連崩壊以来、ワシントンの方針は、ロシアとドイツの政治・経済協力関係が深まるのを妨害する楔としてポーランドを育てることだった。米国のミサイル防衛や、現在のパトリオット・ミサイルをロシアに矛先を向けてポーランドに配備する決定をしたのもその一環である。
ポーランドなど各国からの猛烈な政治的反対にかかわらず、今月、シュレーダーのノード・ストリーム計画の第一次主要目標は完成し、二本のパイプラインの内、一本を工期通りにルブミンに接続させた。今月後半にもう一本が接続し、2011年後半にパイプラインが稼動開始すれば、これは世界最大の海底パイプラインとなり、毎年550億立方メートルのガスを欧州に運ぶことになる。海中ルートは、ポーランドとバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)を避けながら、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ドイツの領海・排他的経済水域を通っている。
ルブミンは、中継局となり、そこから、OPALパイプラインがサクソニーを経由してチェコ国境まで470km走ることになる。他の西側のパイプラインが、既存のパイプを使って、ロシアのガスを、オランダ、フランス、英国へと運ぶことになり、欧州とロシアのエネルギー関係は相当に濃厚になっていく。これはワシントンには歓迎できないことだ。フランスのGDFスエズ(前Gaz de France)は、ノード・ストリーム社の株式の9%を購入したばかりであり、オランダのガス・インフラ会社N.V.Nederlandse Gasunieも9%を保有している。このようにノード・ストリーム計画には広範なEU諸国の参画が得られており、これは米国が反対する中、プーチン・メドヴェージェフ政権が成し遂げた地政学的な成果だ。現在、ノード・ストリームは、ドイツだけでなく、デンマーク、英国、フランス、オランダ、ベルギーにガス供給する長期契約を締結している。
南北のエネルギー・ストリーム
ガスプロムは、次の大規模ガス・パイプライン計画も進めている。ロシアの南海岸(黒海の地下)から、ブルガリア、最終的にイタリアへとガスを運ぶサウス・ストリームである。7月7日、ブルガリア政府は、長い交渉の結果、ガスプロムのサウス・ストリーム計画に参画することに同意した。
サウス・ストリームのガスパイプラインは、ロシアのガスを、ウクライナを迂回して、西ヨーロッパへと運ぶ。ウクライナは、近年、ワシントンが、反ロシア・親NATOへと誘導するために、かなりの労力を費やした国である。ソ連時代に一体だったロシア・ウクライナ両国の経済関係の名残りとして、大半のロシアのガス・パイプラインはウクライナを通って西に伸びていた。このため、2005年1月に米国が後援した「オレンジ革命」でワシントンの傀儡ビクトル・ユシチェンコが、反モスクワ・親NATO政権となると、モスクワは非常に弱い立場になった。最近の選挙で、ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ(Viktor Yanukovych)が新たに大統領になり、モスクワとNATOの双方と関係を維持する中立姿勢に移行したため、モスクワとキエフ(ウクライナ)の緊張は随分と和らいでいる。ロシアのガスプロムとイタリアのENIが共同操業するサウス・ストリーム・ガス・パイプラインの沖合部分は、黒海の地下のロシア本土からブルガリアの海岸へと走る予定である。ブルガリアとの新協定により、ブルガリアを通過する既存のガス・パイプラインが中継に利用されることになる。
ワシントンは、トルコやEU諸国に、ロシアのサウス・ストリームに代わるパイプライン(ナブッコ)を建設するよう圧力をかけてきた。これはロシアを排除したパイプラインだ。現在のところ、ナブッコにはEU諸国の支持が集まっておらず、パイプラインを満たすだけのガス供給源も十分でない。
サウス・ストリームの完成は、EU諸国、中央ヨーロッパ、ロシアの地政学的な結束を固めることになる。これはワシントンにとっては悪夢である。第二次大戦後の米国の政策はソ連との冷戦を煽ることで西欧を支配することであり、1990年以降はロシアに向け東方にNATOを拡張することで西欧を支配することだった。次第に独立傾向を強めている西欧は、大西洋の向こうよりも、むしろ東を向くようになっており、これは「唯一の超大国」としての米国の支配継続に大きな挫折をもたらしうる。
かくして、はからずも、ドイツ北東部の素敵な海辺のリゾート地ルブミンは、住民は認識していないかもしれないが、ワシントンとユーラシアの事実上の地政学ドラマの主要舞台になってしまったのである。
(翻訳:為清勝彦 Japanese translation by Katsuhiko Tamekiyo)
関連情報
Nord Stream ホームページ http://www.nord-stream.com/
Seebad Lubmin 観光ガイド (ドイツ語) http://www.lubmin.de/
