掲載2010年3月8日

米国債のボイコットと「持続不可能な赤字」

"Unsustainable Deficits" and Bond Boycotts: Panic at the Fed or Back to Financial Normalcy?

F・ウィリアム・イングドール

By F. William Engdahl

(http://engdahl.oilgeopolitics.net/)

2010年2月24日

米国Fedが主要金利の引き上げを決定したのは、米国の経済回復に自信を持っている証拠では間違ってもない。また、公式説明とは違い、Fedの施策が徐々に通常の状態に戻っている証拠でもない。事実はむしろ逆であり、米国債(ドル金融システムの核心)の市場での受け止めがあまりにも弱いことが惹き起こすパニックの前触れだ。

2006年以来になるFedの金利引き上げ(いわゆる「公定歩合」を0.5%から0.75%に引き上げた)のニュースに金融市場は大喜びし、ドル買い・ユーロ売りで歓迎した。「公定歩合」は、一般の銀行が中央銀行から借りるときに適用される金利だ。それと同時に、Fedには、もっと重要な短期金利のFF金利(フェデラル・ファンド金利)があるが、こっちは歴史的な低水準(0.0%~0.25%)に据え置いたままだ。Fed理事会の公式説明では、今回の金利調整は、民間の銀行を、民間の銀行間資金調達(インターバンク)市場に押し戻す意図があると言っている。2007年8月に始まった金融危機〔サブプライム金融危機〕のとき以来、民間銀行はFedの助成資金に依存してきた。

Fedの決定は、平易な言葉でいえば、「通常の営業に戻りました」という印象を与える仕掛けだ。時を同じくして、ジョージ・ソロスのような金融界のプレーヤー(役者)が、ユーロ圏の基礎的経済状況は悪いと宣伝している。つまり、ドル圏の根本的に悪い経済状況に投機資金の圧力がかからないように、ユーロに犠牲になってもらい、ドルから目を逸らしてもらいたいのだ。実態としては、ドル圏は、決して正常な経済状況に向かってはいない。

「持続不可能な赤字」

セントルイス連銀〔訳註:カンザスシティ連銀の間違い?〕の保守的な総裁トーマス・ヘーニグは、連邦政府の財政赤字を緊急かつ大幅に削減しなければ、間もなくイタリアやギリシャのように公共債務がGDPの100%を超過する事態になるだろうと警告しているが、彼の話は殆ど報道されていない。ヘーニグは、最近の演説でこう話している。

米国の財政見通しは、驚愕すべき状況であり、いずれにしても改革が不可避であろう。現在の財政政策は、持続不可能な道を進んでいる。米国政府は、支出と税制の見直しをしなければならない。単純な話だ。この財政見通しに対し、もしも先を見越した是正措置がとられないならば、米国そのものが次の危機にまっさかさまに転落する冒険をすることになる。

普通の人でも理解できる言葉に翻訳すればこういうことだ。非公式な数字だが労働人口の23%もの人々が実質的に失業している状況下で、そして、各州政府も支出削減に苦悶している状況下で、連邦の資金も枯渇している。だから、連邦政府は野蛮なまでに支出を削減するしかないのだ。

一言でいえば、誰も言いたがらないが、米国経済は、第三世界的な「債務の罠」にはまっているのだ。政府が赤字を削減するほど、深刻な不況に沈んでいく。だが、それでも、マネーを印刷し続け、債券を販売し続けることはできるだろうが、いずれ米国債の購入者も、購入を拒否するときが来る。債券が売れなければ、不況の真っ最中に米国の金利は極端に上昇することになる。これは、経済全般に対し、等しく破滅的な状態をもたらす。

米国債のボイコット(不買運動)?

米国債のボイコットは、すでに始まっている可能性がある。爆発的に増加中の赤字を補うため、米国財務省は2月11日、160億ドル相当の30年債の入札を実施した。債券の需要という意味では、売れ行きは芳しくなかったが、この入札に関しては、殆ど報道されていない特徴がある。外国の中央銀行は、ここ最近、平均して全体の43%を買っていたが、今回はたった28%に落としているのだ。外国の中央銀行の中で、近年、米国債の最大の買い手になってきたのは中国と日本だった。次に、債券の需要が弱いため、Fed自身が債券の販売総額の約24%を買い取らざるを得ない状況になったようだ。わずか1ヵ月前には5%で済んでいたのにである。

連邦の財政赤字は、今期(2010年9月期)は約1兆6000億ドルに達する見通しであり、翌年、さらに向こう少なくとも十年は、毎年1兆ドルを超える規模が継続する見通しである。

この状況を更に悪化させることに、第二次世界大戦後に生まれた人口の多い世代(1945-1966年に生まれたベビーブーム世代)が、ちょうど大量に定年を迎え始める。これによって連邦政府は、社会保障税の収入を失う。これまで社会保障税は、連邦予算的には収入をもたらす「資産」だったが、今後は退職者に毎月の年金を支払わないといけないという意味で「負債」に変わってしまうのだ。この要因で、次の10年間(それ以降も)、赤字は大幅に拡大する。

クリントン時代には、財政「剰余金」が出たとしつこく褒めたてていたが、実際のところは、クリントンの功績でも、彼の財務長官ロバート・ルービン、ラリー・サマーズの功績でもなかった。ベビーブーム世代の社会保障税(年金保険料)収入が1990年代後半にピークを迎えていたのを、欺瞞的に政府の収入として計上する慣例があっただけのことである。その税収が、今、まさに次の10年に向けて巨大な支出に転じようとしているのだ。

新たな「チャイナ・シンドローム」

しかし、このような状況に直面しているにもかかわらず、ホワイトハウスは一連の馬鹿げた政策を実行し続けているように見える。個々の行動が、互いに真っ向から矛盾しているのである。例えば、(確認できる限り)先月までは最大の米国債保有者であった中国に対する最近のワシントンの態度である。

オバマ政権は、最近、中国の自動車タイヤに懲罰的な輸入関税を課した。さらに、中国の強い抗議にもかかわらず、台湾に対して新たに巨額の武器販売を行うと発表して挑発し、最大の債権者との外交関係を緊張させている。また、さらに、ヒラリー・クリントン国務長官は、検閲の疑惑で中国を公然と非難し、中国の内政問題であるインターネット規制に干渉した。

また、さらに傷口に塩をすり込むかのように、中国の正式な抗議にもかかわらず、オバマ米国大統領は、2月18日のワシントンの祭典で公式にダライ・ラマに会った。チベット修道士の幸福を本気で心配する気持ちから会ったわけではなさそうだ。米国が中国への圧力を強めていることを示すためだった。今日までのところ、北京は、公式には、手堅く、落ち着いた対処をしている。だが、本当の反撃は、政治の舞台ではなく、金融の舞台になりそうである。古代中国の兵法の哲学者、孫子も、そうしろと勧めるに違いない。

この米国政府のタイミングをわきまえない圧力に対抗し、中国政府はすでに米国債をボイコットする動きに出たようである。12月の段階で、中国は米国債の(正味差し引きで)売り手になっていた。その売却額は、430億ドルを超えていた。輸出収益で得た毎年の巨額の貿易黒字により、現在、中国人民銀行は、2兆4000億ドル相当の資産(外貨、金など)を保有している。その少なくとも60%が、米国の国債他政府保証債務であり、金額的にはだいたい1兆4000億ドルと考えられている。もしも中国が国際金融市場に米国債を投げ捨て続ければ、ドルは急落し、ウォール街は強烈なパニックに陥り、世界中に飛び火するだろう。

実態では国内経済が悪化しているにもかかわらず、バーナンキのFedが突然の利上げに踏み切ったのは、この各国中央銀行などによる米国債不買の動きを覆す試みだったようである。彼らは、はったりで壮大な市場ゲームをしているようだ。「最悪の事態は終わっている」と信じさせたいのである。

このFedの行動は、最近のギリシャの出来事でウォール街とヘッジファンドがユーロを攻撃したのと同様に、世界の準備通貨としての米ドルの生き残りをかけ、ますます水面下に潜伏した経済戦争の様相を呈している。私の最新の著作『ゴッズ・オブ・マネー、ウォール街とアメリカの世紀の終焉』(Gods of Money: Wall Street and the Death of the American Century)で述べているが、1945年以降の米国の世界支配パワーは、文句なしの世界準備通貨としてのドルと、世界を圧倒する軍事力に支えられていた。ドルという支柱が崩れれば、手を伸ばし過ぎた軍事力も危うくなる。

Fedは、金融の連鎖崩壊を招くような債券市場のパニック売りを回避しようと、必死の状況である。だから、より重要なはずのFF金利はゼロに据え置きつつ、片方の金利だけを引き上げたのだ。それはもう、死に物狂いの「はったり」である。だが、今のところ、金融市場の素直な人々、このトリックを信じているようだ。どれくらいの期間、気付かないのか、不明である。

ギリシアの危機が解決され、スペイン、ポルトガル、イタリアが破産するほど悪い状況ではないこと(困難な状況かもしれないが、絶望的な問題ではない)が明確になれば、現在のドルとユーロの見通しは、劇的に変わる可能性がある。

そして、現在の状況では、中国の中央銀行が、成り行きを決める鍵を握っているのだ。世界的な袋小路の行く末として一つ考えられる予想としては、中国人民銀行が、金と銀の準備を大幅に買い増すことである。中国にとっては、米国の借金を買うよりは遥かにメリットがある。そして、中国圏内でドルやユーロに依存せず貿易や国際ビジネス活動を行うための通貨の裏づけ・基盤としても利用可能である。

金と銀

最近まで中国の「金」備蓄は、準備金の規模と比較すると、少なかったといえる。中国の中央銀行の公式な「金」準備は、2009年3月現在で1,054トン(今日の時価でおよそ370億ドル相当)だった。だが、準備金総額からすると、1.5%に過ぎない。準備金そのものは、2003年以降、76%増加しているのだ。各国の中央銀行は、平均して準備金の10%を金で保有している。ドイツ連邦銀行は約3,400トンの金を保有しており、米国のFedに次ぐ規模である。それと同等の10%にするとしても、中国は2,000億相当の金を購入する必要がある。これは世界の鉱山の金産出量の二年分に相当する。

ところで、多くの国は、銀の備蓄には、それほどウェイトを置いていない。だが、中国は歴史的に例外である。1900年以前の帝国の時代から、金本位というよりは銀本位の国だった。そのため、相当な銀の備蓄を保有していた。1840年の「アヘン戦争」の狙いの一つは、イギリスの金本位制にとって有利なように、中国の銀準備を全て削ぎ落とすことだった。

2001~2002年には、中国は銀の大口の売り手であった。当時の1オンス5ドル以下の価格で、合計1億オンスを売却している。だが、それ以来、中国は銀を売るのを止めた。昨年2009年9月、中国政府は預金者に銀を買うのを奨励する布告を出した。金と銀の価格比率は70:1となっており、歴史的に金が高いため(銀が割安なので)、銀を買うのは良策だと説明したのである。そして、買いやすいように小額のインゴットを提供し、銀の輸出を禁止した。

銀行預金を銀に変換するということは、銀行預金を無効化することになる。この中国の動きは、株式市場の投機を冷まし、マネー供給を減らすことを、ほぼ間違いなく意図したものだ。その上、昔から予想されていた中国の金融危機が発生しても、容易に通貨として流通可能な銀のインゴットで資産の大部分を保有していれば、長年苦難に耐えてきた中国の一般市民も、さほど悪影響を受けることはない。

今や、中国は、金よりもむしろ、極めて大口の銀の買い手になっているようだ。このように、中国人民銀行が保有している米国債の売却は、中国人民銀行自身が蓄える金の購入と、中国の人民に供給する銀の購入で、相殺される可能性があるのだ。

(翻訳:為清勝彦 Japanese translation by Katsuhiko Tamekiyo)

原文の紹介

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